IoT、AI そして シンギュラリティ(3)

IoT、AI そして シンギュラリティ(3)

<<前の記事に戻る

前2回で述べたIoT、AT、シンギュラリティに関する記事をまとめておきます。

前2回の記事はこちら
IoT、AI そして シンギュラリティ(1)
IoT、AI そして シンギュラリティ(2)

 

はじめにIoTの発展に伴い、あらゆる“モノ”、“ヒト”、“コト”などからさまざまな情報が発信されるようになります。すなわち、現在言われている“ビッグ・データ”が何十倍、何千倍と膨れ上がることになります。並行して、企業の営利目的や研究機関の分析目的などで、莫大な情報を活用するための分析ツールとしてAIが開発され活用されることになります。

IoTの発展により級数的に膨れ上がる情報と、逐次的で瞬時に情報を整理し分析するAI開発の段階が的確にマッチングした時、シンギュラリティと呼ばれる時を迎えることになります。このシンギュラリティを迎える時には、製品やサービスと関連する事象からの莫大な情報をAIに統合されたCRMやSCMなどが対応し、顧客満足が最も高い“売れ筋製品やサービス”だけが流通する社会や、完全に個々の顧客ニーズに対応した商品やサービスを提供できる社会になる可能性があります。

 

2回目の最後にも述べましたが、これらの考察から見えてくるのは、IoTが十分に浸透しAIによる管理が進めば進むほど、顧客側にとっては日常の生活に必要なものを必要な時に必要な量だけ享受でき、企業側はAIにより管理された世界中のロボット化されたスマート工場で2つとして同じ製品やサービスを作らずに効率化できる社会に向かうと言えるのではないでしょうか。

このような変革期には、仕事内容にも変革を与えます。既存の仕事で不要となったり、新たに必要な仕事が生まれたりします。例えば、戦前までのわが国で大きな産業であった稲作には、大きな労働力を必要としていました。特に田植えや収穫期には、機械化が進展しつつあった戦後の高度成長時にも一時的な労働力を擁していました。しかし、耕運機の発達に伴い農業従事者は、劇的に減少すると同時に高齢化を可能にしました。農業専従者が減少する一方で、農業以外への従事者ばかりではなく、農業の6次化などへの従事者が増加しました。

 

2016年7月の「グローバルビジネスハブ東京オープニングイベント」に登壇した東京大学特任准教授で経済産業省が主体となって設立された「人工知能研究センター」の企画チーム長も務めている松尾氏は、人工知能研究の歴史から現在の産業分野におけるAIの活用の実態、さらにディープラーニングを用いた「子どものAI」による破壊的イノベーションの可能性について講演を行いました。

その中でAI化に伴う仕事内容の変革に関して、下図のような示唆を示しました。この表の最下部に書かれている「A:画像認識」「B:運動の習熟」「C:計画立案を伴う運動」がAIの能力を意味しています。例えば、Aの画像認識が利用可能なレベルになれば、農業分野では毎日田畑へ出かけて収穫の判定をする必要ななくなると同時に正確な収穫時期を決定できるようになります。また、Bの運動の習熟能力が利用可能になれば、食品加工分野での食品のカット、皮むきなどの作業が機械化され人員は不要になります。さらに、Cの計画立案を伴う運動の能力が利用でいるようになれば、多くの産業は機械による自動化が可能となり、人的な要員が不要になります。

 

記事0824_01

出典:「ビジネス+IT:「子どものAI」が起こす破壊的イノベーション」 

 

 

また、「ガートナー ITインフラストラクチャ&データセンターサミット2016」に登壇した東京大学教授の新井氏は、ここ10~20年で無くなる可能性がある職業としてよく言われるのは、電話でのセールスやデータ入力作業、証券会社の事務、スポーツの審判、銀行の窓口業務、車の運転業務などを挙げて、「でも私はこの中の銀行の窓口業務よりも、『半沢直樹』がロボットに代替されるほうが先だと考えている」と述べました。その理由として、彼の仕事が与信審査だという点から「与信審査は、お金を借りに来た企業の売上データとか、個人なら資産や職業などのデータを元に、どれだけの金額を、どんな条件で貸せばいいのかを判定する仕事です。1000人借りに来たなら、そのすべてで個々に利益を出す必要はなく、全体として利益が出ればいいのです。そういう確率的な最適化は、ロボットは本当に得意」と述べました。

(出典:「ビジネス+IT」

 

このように、IoTによる情報量の拡大とAIによる情報分析の進化が進むと、確実に必要がなくなる仕事が出てきます。しかし前段でも述べたように、時代の趨勢で必要が無くなる仕事が顕在化すると、一方で新たな仕事が生まれてくるものです。問題は、このような時代の趨勢の中でこのフォーラムの多くの読者に関連するデータサイエンティストの仕事がどのように変化するかということでしょう。上記の職業に関する示唆を基に俯瞰してみると、データサイエンティストの仕事の中で多くの時間を必要としてきた単純な作業や、さまざまな統計モデルを適用したデータ分析の多くがAIの得意とする分野となり得ると思われます。

従いまして、シンギュラリティを迎える時代には、AIが現在のデータサイエンティストの仕事の多くを行えるようになると思われます。さらに、企業や団体は、このAIが下したデータ分析の結果を基に経営判断を行うようになるでしょう。しかし、逐次的で瞬時に判断を下したAIが、常に正しい答えを導き出しているとは限りません。まさにこの時代には、昨日まで安定的で資金が潤沢だった企業が、AIの判断に従ってまったく市場に受け入れられることがない事業に莫大な投資を行い倒産する可能性も秘めていると言えるでしょう。

 

このような時代の趨勢の中でデータサイエンティストには、AIの機能向上のための論理的な構造への貢献と、AIが判断した結果に対する理解が求められるようになると思われます。例えば、AIが下した判断結果に対してAIと会話しながら妥当性を検証ができるのは、データ自体への理解から各種分析手法への知識を持つデータサイエンティストだけです。このように、企業や組織にとってデータサイエンティストの役割に変化はないものの、機能や能力には大きな変化を求められることになります。

 

以上で、このシリーズを終わらせていただきます。